寺島実郎の発言

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THE WORLD COMPASS 2006年12月–2007年1月号 掲載

2007年を考える5つの論点
1.世界経済の「巡航速度」へのソフトランディングは可能か?
  • 2007年の世界GDPの実質成長率についての世界のエコノミストの平均的予測値は3.2%。これを減速から同時不況への反転とみるか巡航速度への収斂とみるかがカギ。(04年:3.9%、05年:3.3%、06年見込み3.8%と3年連続の3%台成長)
  • 米国と日本の減速予想が大きく反映。(米国:06年見込み3.3%→07年予測2.3%、日本:06年見込み2.4%→07年予測2.0%)
  • 環境問題とエネルギー問題に配慮すれば、持続可能な適正成長は2.5%前後か。
  • 実質3%台の成長の持続と世界人口の持続的拡大を視界に入れれば、基盤需要(水、食料、エネルギー、希少金属など)の拡大が見込まれ、一次産品市況の「高止まり」状況が予想される。
2.「脱・9.11」の時代を模索する世界

懸念される米国の内向

  • 「イラクの失敗」を踏まえた米国の孤立と内向きへの回帰(国際社会への責任ある関与からの屈折した形での回避)。例えば、ICC(国際刑事裁判所)、京都議定書、CTBTへの距離。

中東の秩序の液状化

  • イランを中核とするシーア派イスラムの台頭。
  • シーア派主導のイラクへの傾斜とイランの影響力の高まり、そして「内戦化」(クルドの自己主張、スンニ派の反発)。
  • イスラエルの焦燥と孤立感の深まり。
  • オイルマネーで潤う産油国アラブへの反発。

ユーラシアの地政学の変化

  • 注目すべき「上海協力機構」の動き(ロシア・中国・中央アジア諸国の連携の深化)。
  • ロシアの「エネルギー帝国主義」。
  • 中国の台頭と強勢外交。
  • したたかなインド(上海協力機構へのオブザーバー参加と米国への揺さぶり)。

欧州の欧州化

  • 2007年よりEUは27カ国体制へ(ブルガリア、ルーマニアの加盟により欧州は黒海に到達)。
  • 05年のフランス、オランダでのEU憲法条約批准否決により統合の動きは停滞気味だが、統合の深化は着実に進行。
  • 共通通貨ユーロも導入時に比べ対ドルで2割も増価、次第に「第二の基軸通貨」としての地歩を固めている。
  • イラクに派兵したイタリア、スペインは政権交代、英国もブレアの求心力低下で、欧州全般が「脱・9.11」モードへ。

中南米の「中道左派政権」への傾斜

  • 「反米左翼政権」への回帰(ベネズエラ、ニカラグア、エクアドル、ボリビアなどでの相次ぐ左翼政権化)。
  • ブラジル、コロンビア、メキシコ、チリなどの主要国の政策軸は中道現実主義路線。
3.日本経済の構造変化をどう認識するか
  • 「いざなぎ景気超え」などといわれる長期景気拡大にもかかわらず、実感がわかない構造的理由を注視する必要あり。

「川上インフレ、川下デフレ」構造の今後:カギ握る個人消費動向

参考:企業物価指数
  • 勤労者家計可処分所得は2000年から05年までに7%減少。06年も若干の収入増を公的負担増が相殺する形で前年比横ばい。消費が伸びる状況ではない。

企業業績回復の構造

  • 法人企業経常利益は1990年度の38.1兆円から98年度を底として21.2兆円にまで急落、その後2005年度には51.7兆円にまで回復。ただし、現在の日本企業収益の6割以上は海外活動(海外連結業績・海外金融収益・輸出による利益)からの利益で、国内の産業活動との温度差は拡大。国内の従業員への労働分配率を引き上げられない理由となっている。
  • 深刻化する「ワーキング・プア」問題:2005年1−3月期には、役員を除く国内雇用者5,002万人中、非正規雇用者(パート、アルバイト、派遣、契約社員等)は1,663万人(32.2%)で、そのうち年収200万円以下の「ワーキング・プア」は1,260万人で76%を占める。
    (注)1995年1−3月期の非正規雇用者比率は20.9%、85年1−3月期は16.4%であった。

国際収支の構造変化

  • 2005年度の「所得収支」の黒字が「貿易収支」の黒字を上回った。
参考:日本の国際収支
  • これに関しては成熟した債権国に移行しつつあるとの見方もある。ただし、海外への証券投資からの収益が所得収支の74%を占めて海外直接投資からの収益を大幅に上回っており、日本産業の基本性格が「ものつくり」から「金融収益」に依存する方向へと変質しつつあることは確かであり要注意。

貿易構造の変化

  • 対米貿易比重の低下。
参考:日本の貿易総額に占める対米国貿易比重
  • 5割に迫る対アジア貿易比重。
参考:日本の貿易総額に占める対アジア貿易比重
4.急速に進行する日本の社会構造変化:少子高齢化社会の本格化、2007年問題

日本の人口構造の成熟化

  • 2004年に日本の人口は1.28億人でピークアウト。2046年には1億人を割り込むと予測されている。年平均69万人、人口が減る半世紀に入った。
  • 同時に高齢化が進行。2005年に65歳以上人口の比重は20%となり、2025年には30%、2050年には40%と予想される。

世界人口の増加

  • 他方、世界人口は毎年1億人のペースで増え続けており、2001年に60億人、2005年に65億人、2010年に70億人と予測、さらに2025年には80億人、2050年には90億人に達すると予測されている。
  • 特に、中国、インドなど人口急増地域と成長ゾーンが重なり、基盤需要(水、エネルギー、食料など)の拡大をもたらしている。
  • しかも、人口500万人以上の巨大都市は、現在の40から2025年には58になると予想。世界人口の5割は都市に居住することに。都市化による生活様式・社会構造の変化加速。
  • 日本の人口構造の成熟化を「衰亡」にしないためにも、世界、とりわけアジアの人口増のダイナミズムを戦略的に取り込む視点(東アジア連携)が求められる。

2007年問題

  • 団塊の世代の本格的定年退職の到来。この世代の第二の人生のライフスタイルが高齢化社会の性格を決定付ける。「成熟型消費社会」への構想力が不可欠。
  • 「二地域居住」(マルチ・ハビテーション)による活性化:「農業生産法人」を受け皿とする都市と農村の二地域居住の推進。
5.新秩序、ニュールールの胎動

資本主義の在り方をめぐるルール

  • ライブドア、村上ファンドをめぐる事件を踏まえた「マネーゲーム」の制御の動向。

新国際秩序を模索する動き

  • 原子力の国際的管理、京都議定書を踏まえた環境関連のルールづくり、ICC(国際刑事裁判所)の体制整備など、新たな国際協調を模索する動きの帰趨が重要。