寺島実郎の発言

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THE WORLD COMPASS 2005年12月–2006年1月号 掲載

2006年への視点—21世紀型世界秩序への道
1世界経済の同時好況の持続とその構造

21世紀に入っての世界経済は成長を加速、まさに未曾有の同時好況を持続させている。世界全体のGDP成長率は、2001年1.0%、02年1.9%、03年2.6%、04年3.8%と推移、05年も当初予測の2.9%を上回る3.1%成長見込み。06年も3%前後の成長が予測されている。

しかも、「マイナス成長ゾーンがない」という意味で世界同時好況の中にあり、とりわけBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などエマージング諸国が実質5%以上の成長を維持し、世界経済の成長エンジンとなっている。

注目すべきは、この同時好況が持続していることであり、なぜ持続しているかについての洞察が求められる。理由として指摘できるのは、次のとおり。

(1)冷戦終焉後のグローバル化とIT革命のインパクト
かつての東側が市場経済に参入し、国境を超えたヒト、モノ、カネ、技術、情報の移動が加速されたこと。さらに、それを促す技術基盤として「情報ネットワーク技術」が普及・定着したこと。
(2)世界人口の増加
21世紀スタート時点での世界人口は60億人、1年1億人ペースで増加、2010年には70億人を超す 見込み。人口増は人間生活の基盤要素たる水、食糧、エネルギーなどへの潜在需要を押し上げ、成長要素となる。
(3)戦争経済要素
不幸なことだが9.11からイラク戦争を経て、米国を中心に世界経済は戦争経済下とも言える。米国の軍事予算は00年の2,945億ドルから06年には5,139億ドルに拡大、産軍複合体に回帰した。
(4)世界的低金利要素
金融拡大基調の持続。
(5)産油国オイルマネー肥大要素
中東湾岸産油国GCCの石油収入は05年3,000億ドル、06年4,500億ドルとオイルマネー・ブームへ。ロシアも石油・ガスの高価格推移で財政事情好転、極東地域への予算6倍増。

一方、過熱状態の世界経済を背景に潜在リスク要素も顕在化している。

(1)環境問題の深刻化
地球は高成長の持続に耐え得るか。エネルギー消費増とCO2。
(2)エネルギー価格の高騰
60ドル原油のインパクト。エネルギー利用効率の低い国ほど深刻なダメージ。日本のエネルギー利用効率は米国の1.5倍、中国の4倍。
参考:日本への原油入着価格
2.日本経済—「川上インフレ、川下デフレ」の長期化が変える産業構造

21世紀に入っての日本の実質GDP成長率は2001年0.4%、02年0.1%、03年1.8%、04年2.3%、05年見込み2.2%、06年予測1.9%で推移している。大企業の業績回復(過剰雇用、過剰設備、過剰債務を解消)を通じた内需主導型の景気拡大要素も見られるが、大中華圏などアジア依存要素が重い。

貿易構造の変化
アジアとの相関深める日本産業。
日本の貿易総額に占める比重(2005年1〜9月)
物価動向の変化
原材料資材価格の高騰(川上インフレ)と最終消費財価格の低迷(川下デフレ)が同時進行。この1年で、中間財や消費財の価格も上昇したが、それでも原材料と消費財の価格ギャップは拡大した。
企業物価指数(2000年=100)
素材型企業の復権
素材原料の高騰による利益の川上シフト。「構造不況業種」とされた鉄鋼業も空前の利益を実現。06年3月期の新日鉄、JFEの両社の経常利益は5,000億円超と予想。
従来の産業論では説明のつかない状況
川下優位の時代ではなく、川上による川下の再編統合、先端技術分野よりも原材料素材分野に利益が集積される皮肉な傾向顕著。
3.「脱9.11」への世界史的転換点

21世紀スタート直後の2001年に「9.11の衝撃」を受け、アフガン攻撃からイラク戦争へと米国が主導する「テロとの戦い」に揺さぶられた5年が経過し、世界は「脱9.11」へと冷静さを取り戻しつつある。

消耗し、疲弊する米国
(1)イラク戦争での米兵士の死者2,108人(05年11月末現在。05年1〜11月だけで800人超)
(2)イラク戦争での累積戦費3,000億ドルが財政圧迫。経常収支と財政赤字を合わせた「双子の赤字」は1兆ドルを超す水準。
米国の「力の論理」を背景にした自国利害中心主義の破綻
 世界は「ナショナリズム」に回帰したように見えるが、全員参加型の国際協調と国際法理を求めた21世紀型秩序に向けて少しずつ前進。
米国主導型の世界史のゲームからの転換
冷戦後の唯一の超大国として世界をリードする指導理念、優位性、正当性の喪失(イラクとハリケーンで見せた醜態)。
4.ユーラシア・ダイナミズムの新局面
ロシアの復権
石油に天然ガスを加えたエネルギー生産力で世界一へ。
石油換算の原油・天然ガス合計の産出量(2004年)
中国とロシアの連携深化「上海協力機構」の拡充
(1)上海FIVE(1996年4月スタートの中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンによる協力体制)の拡充による「上海協力機構」の結束強化。01年からはウズベキスタン参加。モンゴルのオブザーバー参加。05年にはインド、パキスタン、イランもオブザーバー参加。中露の合同軍事訓練実施、9.11以降に米国が中央アジアに展開した米軍基地の撤収要求(ウズベキスタン、キルギスタン)。
(2)米国の一極支配を拒否し、多極多次元の秩序を志向する動きの鮮明化。
突き上げるイスラムの復興
(1)グローバル資本主義への異議申し立て勢力としてのイスラム。
(2)イデオロギーの対立を克服したかに見えた冷戦後における宗教と民族の問題。
(3)欧州のイスラム化:年間50万人のイスラム教徒の流入(欧州でのイスラム人口1,500万人)、ロンドンでのテロ、パリ郊外での暴動にも内側に抱えたイスラム要素の噴出という面もあり。
(4)米軍のイラク撤退とシーア派主導のイラクがもたらす恐怖(イランの原理主義回帰との呼応)。
欧州の欧州化
(1)EU25カ国体制への「東方拡大」を経て、問題を抱えながらも「東西分断」された時代を終え、欧州の欧州化(米国からの積極的自立へ)。
(2)統合志向とナショナリズムが交錯しているが、米国の求心力低下の中で、欧州の役割、特に国際ルール作り、制度設計において欧州に本部のある国際機関の重要性(OECD、IEA、IAEA、WTO、ICCなど)が増す。
5.グローバル資本主義の正念場

冷戦後のグローバル化がもたらした影の部分を再考することが必要。

国境を超えたマネーゲームの進行
カジノ資本主義への傾斜。例えば、投機的要素に揺さぶられる石油価格の不安定化。実需70万bdのWTIが一日2.5億bdもニューヨーク先物市場で取引される「石油市場のマネーゲーム化」。
競争主義、市場主義の浸透を通じた富の二極分化
世界的にも、国内的にも貧富の差の拡大と拝金主義の蔓延。
「株主資本主義」への傾斜と資本主義のゆがみの顕在化
株主価値最大化を目指す米国流資本主義のゆがみが村上ファンド、ライブドア、楽天の動きなどで日本でも顕在化。企業を取り巻く多様なステークホルダー(株主、従業員、取引先、顧客、地域社会、国家、地球環境など)への適正な付加価値の創出・配分を目指す資本主義の重要性の再認識が必要。
「ファンド・マネジメント資本主義」の跋扈
中東オイルマネーの米系ファンドによる運用とその企業経営へのインパクト(株価の短期的値上がりだけを意識した経営への傾斜)。
6.日本の人口構造の急速な成熟化への入口

予測よりも1年早く、05年に日本の人口は1.28億人でピークアウト。年平均60万人のペースでの人口減のサイクルに入り、2050年には1億人を割ると予測されている。同時に人口構造の老齢化も進行しており、05年に人口の2割となった65歳以上人口が、2050年には36%に至ると予測。

他方、世界人口は1年1億人のペースで急増を続け、2000年に60億人だったものが2010年には70億人を超す。