寺島実郎の発言

HOME > 寺島実郎の発言 > 発言一覧 > ユーラシアダイナミズムとアメリカの疲弊

THE WORLD COMPASS 2004年12月–2005年1月号 掲載

ユーラシアダイナミズムとアメリカの疲弊—問われる日本および日本企業の戦略
1.過熱する世界経済——持続可能な成長へのソフトランディングは可能か
  • 2004年の世界経済は前年比4%という驚くべき高成長となった。年明け段階での予測では3%程度の見込み(世界のエコノミストの平均的予測値)だったから極端な上方修正であり、世界を見渡してマイナス成長ゾーンがないという「人類史上前例がないほどの高成長の同時化」というなかにあった。
  • 21世紀に入っての世界は、2001年の前年比1%を底に2004年の同4%まで右肩上がりの成長軌道のなかにあり、テロとか戦争という不安要素を抱えながらも拡大を続けた。
  • ただし、地球環境問題やエネルギー問題など「成長の限界」問題を視界に入れたとき、持続可能な適正成長へのソフトランディングが問われるわけで、2005年の予測値3%はその意味で「減速」というよりもポジティブな調整過程と認識したい。
  • 2005年は、京都議定書の発効による地球環境問題への取り組みの本格化、テロなど国境を超えた組織犯罪を処断する国際刑事裁判所(ICC)への参加国の拡大(現在96カ国)など21世紀の新世界秩序を模索する動きが具体化するであろう。
世界経済・貿易見通し(実質前年比)
2.インフレとデフレの同時進行——原材料高騰、消費者物価沈静の怪
  • 国際商品指数(DJ・AIG先物1991年=100)は、2002年6月末に99.5であったが、2003年12月末135.3となり、2004年11月末には153.4とこの2年間に5割以上の上昇となった。
  • 国内企業物価指数(2000年=100)の動きが興味深い。2004年10月の素原材料価格指数は122.9、中間財は100.6、最終財は91.4と「川上インフレ、川下デフレ」が進行していることがわかる。
  • 石油先物50ドル水準に象徴される一次産品、原材料価格の高騰と最終消費財の売上低迷・価格抑制というねじれた二重構造が現下の経済状況を示す。
3.インフレもデフレも中国要因か?——中国・大中華圏のインパクト
  • 中国の高成長(2003年前年比9.3%、2004年同9.2%)を背景にした需要増が一次産品価格高騰の要因とされ、同時に中国の安価な商品の輸出攻勢が製品価格低迷の要因とされがちで、「すべて中国のせいだ」という風潮さえ見られる。
  • 日本の貿易構造の急速な変化(大中華圏に依存する産業構造へ): 日本の貿易構造は、米国への依存から大中華圏(中国、香港、台湾、シンガポールを経済産業的な有機連携体とする認識)への依存へと変化しつつあり、アジア太平洋の物流が大中華圏を中核として大きく変質していることが注目される。
日本の貿易構造の変化
4.ユーラシアダイナミズムの注目点——欧州・ロシア・中東の鳴動
  • 欧州の欧州への回帰:2004年5月のEU拡大(25カ国体制)によって欧州はロシアと直接国境を接するようになり、欧州としての結束を固めた積極的自立を志向する方向に踏み込んだ。外交安保、財政金融政策の一元化は容易ではないが、米国との関係に距離をとり欧州の結束へと段階的接近を図る潮流のなかにある。
  • 株主資本主義に徹した米国流資本主義と異なり、ユーロ社民主義の伝統を背景に、企業を取り巻く利害関係者(取引先、従業員、株主、地域社会、国家、地球環境など)にバランスよく付加価値配分を求める欧州流資本主義は、例えば「行き過ぎたマネーゲーム規制」「環境問題への対応」など先行的実験性を有し、極めて示唆的。
  • ロシアの大ロシア主義への回帰:石油の増産(2004年は900万b/dで世界一)に支えられロシアは7%成長軌道へ。自信回復したプーチンは、CIS諸国への統合力を強め、国内新興財閥群への統制を強め、中央集権体制を再構築しつつある。
  • 試金石としてのウクライナ問題:ウクライナが欧州に回帰するかロシアに回帰するかでユーラシアの地政学が変わるといわれる。2004年末の大統領選挙をめぐる混乱も、欧州とロシアの綱引きでもある。ロシアの南の海の出口たる黒海のオデッサを有し、産業基盤、技術基盤を有するウクライナの帰趨は要注目。
  • オイルマネーで活況なるも不安内在させる中東:油価の高騰により石油収入が拡大して新規のプロジェクトで活況を呈する湾岸産油国、EU拡大で欧州との接点に立ち地政学的重要性を高めるトルコという「光」の側面も要注目。全般に21世紀は「イスラムの台頭」という力学がユーラシア大陸の基底部から突き上げている。他方、米国が仲介者としての力を失い混迷するパレスチナ問題、予断許さぬイラクの情勢、イランの核問題の帰趨など不安定材料内在。
  • アジアのネットワーク型発展:日本を基点として中進工業国が順次離陸する「雁行形態型発展」ではなく、日本、中国、インドを主導エンジンとして南東アジアから北東アジアまでが「ネットワーク型発展」の局面にあり、広域アジアで2005年も実質6%前後の成長が持続する。それはアジア広域でのエネルギー、食料、環境などの問題への対応を誘発する。
5.世界の苦悩としての米国の単独覇権主義——疲弊するアメリカ
  • 第二期ブッシュ政権は国民の支持を確認したとして、「単独覇権主義路線」を強めた政策を展開すると思われるが、疲弊するアメリカに直面し、国際協調路線に転進せざるを得なくなるであろう。
  • 2004年末時点で、イラク戦争での米兵の戦死者が1,300人を超え、イラク戦費も2,200億ドルを超え、リスクとコストの重圧に耐えられなくなりつつある。それらは財政を圧迫して財政赤字を4,000億ドル水準にまで引き上げ、経常収支の赤字と合わせて1兆ドルになろうとしている。
  • それは米国経済への信頼を動揺させ、ドルの下落と米国債の信頼低下となって顕在化しつつある。冷戦後の米国経済の復権を支えたのは世界中からの米国への資金流入であった。経常収支の赤字を埋め合わせ、米国の過剰消費と過剰軍事力を支えた世界の資金流入が今後どうなるかが注目点である。
  • 70年代後半から80年代の「ベトナムシンドローム」は、冷戦の終焉を背景にした「平和の配当」(軍事費の削減と軍事技術の民生転換によるIT革命の推進)によって克服した米国だが、「イラクシンドローム」がいかなる形で克服できるか疑問。
6.日本の社会構造の変質——いよいよ迫る少子高齢化
  • 2006年に日本の人口は1.28億人でピークアウトし、2050年には1億人を割り込むと予想される。1900年に4,400万人だった日本の人口は100年で3倍弱となったが、これからは年平均60万人ずつ人口が減るという半世紀に入る。
  • 同時に、高齢化が進行し、20世紀初頭に5%にすぎなかった65歳以上人口比率が昨年はほぼ20%に達し、2025年には30%を超えると予想される。
  • 少子高齢化を国家衰亡の証としないための知恵が日本社会に問われており、秩序ある移民(契約労働移民制度の導入)や労働力を代替する社会的課題解決型ロボットの研究開発など新たなる戦略が必要とされよう。
7.資本主義の変質——再考すべき経済社会のかたち
  • 日本の上場企業の株の外国人保有比率も21.8%(2004年3月末)となり、経営基盤の国際化は着実に進行。
  • 株主重視の米国流コーポレートガバナンスへの配慮は一段と重要になりつつある。
  • ただし、90年代以降進行した「グローバル資本主義」への再考と反省も必要。つまり、「国境を超えたヒト・モノ・カネの自由な移動」の実現が、マネーゲームを自己目的とするカジノ資本主義への傾斜をもたらし、実需給と乖離した投機的経済を正当化する潮流を作ったことへの省察が必要。
  • また、米国流の競争主義・市場主義の影の問題として、分配の不公正や南北問題の深刻化をもたらしていることへの省察も必要。21世紀の資本主義のあり方が問われている。