連載「INSIGHT」THE WORLD COMPASS 2008年5月号
120ドル原油の怪
10年前、原油価格がバーレル10ドル台で推移していたころ、パリのIEA(国際エネルギー機関)やウィーンのOPEC事務局の専門家と議論しても、「石油がバーレル20ドルを超す日はこない」というのが大方の見方だった。1990年代、東西冷戦の時代が終わり、「グローバルな市場化」が潮流となっていた時代、「もはや石油は供給側のOPECの価格カルテルが価格を決める時代ではなく、市場が価格を決める時代がきた」とされ、石油も一つの国際商品にすぎないという意味での「石油のコモディティー化」が論じられていた。
今世紀に入って7年、世界GDPは年率3.2%で実質成長し、世界のエネルギー消費(石油換算)も年率3.0%とほぼ経済の拡大と並行して増大した。需要の漸増と供給余力の陰りがエネルギー価格高騰の背景にあるとしても、需給関係だけで価格高騰が説明できるものではなく、過剰流動性がエネルギー市場に向かうという投機的要素による価格高騰であることは間違いない。
世界の金融資産は170兆ドル規模と推定(2007年)されるが、今世紀に入って80兆ドルも増えており、世界はその行き場を求めての狂奔状態にあるといえる。サブプライム問題が露呈して、石油価格が40ドル以上跳ね上がったのも、過剰流動性が行き場としての米国の住宅市場を失い、証券化金融商品への信用不安を顕在化させ、とりあ えずエネルギー、一次産品市場に向かわざるを得なかったという事情がある。
注目すべきは、金融市場全体の信用が収縮しているかといえば、決してそんなことはなく、むしろ各国が流動性確保と信用不安回避のため、一段と金融緩和、流動性投入に拍車を掛けており、過剰流動性のマグマはむしろエネルギーを蓄えているとさえいえる。一部に「200ドル原油」という声さえ聞かれる理由もここにある。「金融の肥大化をいかに制御するか」、このテーマが21世紀資本主義の課題である。

