連載「INSIGHT」THE WORLD COMPASS 2007年5月号
極東ロシアへの視界
ウラジオストックの極東工科大学と室蘭工科大学とわが三井物産戦略研究所との三者間の戦略的提携のため、ウラジオストックを訪れた。「雪氷を使った保冷システム」「石炭ガス化」「寒冷地住宅の省エネルギー」「原子力の安全性確保」などの分野での連携を深めようという狙いだが、極東ロシアへの重層的布陣の重要性を痛感した。「環日本海構想」などが語られて久しいが、極東ロシアだけが環から外れたブラックボックスであった。
1991年のソ連崩壊のロシアにとっての意味は、532万km2の土地を分離独立によって失ったということであるが、バルト三国の独立によって西の海の出口を失い、ウクライナの独立によってオデッサなど南の黒海への出口を失ったことでもある。東の出口としての不凍港のウラジオストックの潜在価値は高まったと言える。しかも、台頭するアジア経済と向き合うためにも、ウラジオストックをはじめ極東ロシアは21世紀のロシアにとって重要である。
しかし、ソ連崩壊後のロシアには極東ロシアに予算を振り向ける余裕がなかった。ようやく数年前から極東への予算配分を増やし始め、2012年のAPEC首脳会議をウラジオストックに招致する計画をにらみ、5年間で極東ロシアのインフラ充実のために1,000億ルーブル(日本円で約4,700億円)の連邦予算を投下する構想を発表している。
背景にはエネルギーの増産による潤沢な収入がある。2006年のロシアの原油生産は972万BDとなり、天然ガス(石油換算)の生産量と合わせると2,300万BDに達し、石炭を除く化石燃料の生産力でロシアが世界一の地位を確立したことを意味する。しかも、エネルギー価格が高止まりという状況を背景にエネルギー収入が急増、「ロシアのオイルマネー」という存在が世界経済を揺るがす要素になってきた。
今年3月、EUが共通エネルギー政策を発表し、「再生可能エネルギーで一次エネルギー供給の2割を目指す(2020年)」という驚くべき目標を掲げたのも、「原子力の見直し」という動きを見せる国が増えたのも、「ロシアにエネルギー戦略での生殺与奪権を握られたくない」との欧州の心理が働いていることは間違いない。

