寺島実郎の発言

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連載「INSIGHT」THE WORLD COMPASS 2006年10月号

国際収支の天井

1970年の大阪万博の頃まで、日本の経済白書には「国際収支の天井」という言葉が登場していた。「売るものがないから、買うものも買えない」と言わざるを得ないほど、輸出力が弱かったということである。1970年の通関輸出は193億ドルにすぎず、73年の石油危機の後の3年間、貿易収支は赤字に転落、79年の石油危機の後も2年間、貿易収支は赤字となり、ようやく貿易黒字が定着したのは1980年代以降である。

昨年、2005年の日本の輸出は実に5,960億ドルとなり、35年間で30倍になった。これだけの輸出力を確立し得たが故に国際収支の天井が高くなり、エネルギーや食料、原材料を海外から買う余力が生まれ、発展の好循環に入ることができたのである。

今日の日本にとって外貨を稼ぐ主力輸出品目は、自動車、半導体等電子部品、鉄鋼、自動車部品、科学・光学機器などである。このわずか5品目で輸出の34.5%を占める。注目すべきは自動車と自動車部品であり、この自動車関連で輸出の2割となる。しかも、過去四半世紀にわたり、自動車が日本の輸出の第一位を占め続けており、正に日本の虎の子産業なのである。

ただし、昨年の自動車産業の国内生産台数は1,080万台、海外生産台数は1,060万台、ほぼ肩を並べた。海外生産が1,000万台を超す時代がきたにもかかわらず、依然として輸出のトップを自動車が支えているということは、輸出の内部構造の高度化である。例えば、トヨタでいえば、レクサスのような高級車、プリウスのようなハイブリッドカーなどの付加価値の高い車を輸出市場に投入して、台数は減っても外貨は稼げる構造を構築したからにほかならない。産業現場を支えた人達の努力の結晶である。

総合商社は日本産業の高度化に先駆けしなければならない。とりわけ、貿易の現場を担う業態として、産業、つまり製造業の抱えるテーマと並走しなければならない。国際収支の天井を引き揚げる次代のテーマは何なのか。深い洞察が問われている。