寺島実郎の発言

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連載「INSIGHT」THE WORLD COMPASS 2006年5月号

三井物産は情報産業である

三井物産の初代社長益田孝が、三井物産を創業した明治9年(1876年)の秋に社内の情報誌として私財を投じて「中外物価新報」(現在の日本経済新聞)を創刊したことはよく知られている。物価の動きの中に世界の物流の変化、政治経済情勢が投影されているという考えに基づく決断であり、「外商」が日本の貿易の9割以上を支配する状況下で、内外物価の差を的確に掌握することが公正な貿易には不可欠という問題意識を反映するものだった。

海外ではロンドン、上海、ニューヨーク、サンフランシスコ、安南、シンガポール、オーストラリア、国内では関西、九州、東北、北陸、中部の各地から物価に関するデータを集め、驚くべきことに益田孝自身が解説・論説の筆を執った。ビジネスの前提として、情報というものに対する感度が卓抜だったことがわかる。しかも、情報を占有して自分の取引を優位に展開するのではなく、情報を共有するプラットフォームを構築しようとしたことに益田孝という人物のスケールの大きさを感じる。

三井物産の業態は歴史の蓄積の中で多角化・深化し、利益の源泉もモノを動かすことに介在するコミッションから多様化してきたが、その本質は「情報」に対する感度を磨き、時代のニーズに応える形で情報を体系化・解析・活用していくということに尽きる。その意味において、商社が総合商社となる過程で、この業態は一段と「情報産業」としての性格を強めてきたことに気付く。IT革命がユビキタスといわれる局面を迎え、情報へのアクセスが便利で効率的になるにつれて、一段と付加価値の高い情報力が問われる状況となってきた。真の情報優位性を高めるための真剣な努力が求められている。