連載「INSIGHT」THE WORLD COMPASS 2005年11月号
国際情報への姿勢
三井物産を辞めた先輩達が訪ねてこられて何度となく口にされるのは、「現役時代には三井物産の情報力などといっても実感がなかったが、会社を離れるといかに物産の情報力が優れていたかを思い知らされる」という話である。確かに、世界に拠点展開し、経済活動の現場に集積する情報の量と質は、一般的な報道メディアを駆けめぐる情報に比べて優位にあるとも言える。
しかし、宝の山とも言える情報基盤を有しながら、その戦略的活用となると問題山積だと思う。世界各地・各国に関する地域情報は集積されているが、日本を基点とした視点からの情報に傾斜しがちで、グローバルな視点からの地域間の相関関係を体系化する情報分析になっていない。例えば、中国やアジアへのビジネス上の関心が高まり、中国やアジアを深掘りする情報分析力はあるが、中国とロシア関係、中国と欧州の関係、中国とインドの関係、さらにユーラシア全体の関係の中での中国の位置付けなどを総体としてとらえる分析情報に優れているとは思えない。
また、現実の大型プロジェクト案件を推進する際、グローバルな潮流の中でプロジェクトを見極める視点が生かされているとも思えない。イランの石油化学事業からの撤退で学んだことは、世界潮流の歴史的・文化的構造認識の上にしか国際事業は成功しないという点にあった。我々の活動は小成に安んじてはならない。日本産業の耳目として、一味も二味も違う情報力を装備していかねばならない。
三井物産の初代社長だった益田孝は、世界の物価動向を的確にとらえる情報力に注力し、社内報とした「中外物価新報」を創り、今日の日本経済新聞に発展させる礎を築いた。ネットワーク情報革命が、「どこでも、いつでも、誰でも」情報入手を容易にする時代をもたらす中で、真に価値ある分析情報がより一層求められていることを痛感する。

