寺島実郎の発言

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連載「INSIGHT」THE WORLD COMPASS 2003年5月号

ゆがみない情報とは

的確な環境認識には、事実を直視したゆがみない情報が必要となる。これが極めて難しい。本人は偏見も予断もない客観的な認識を持っているつもりでも、日常的な情報環境のなかで無意識のうちにフィルターを通じた認識に陥っている可能性がある。

EUの情報分析の専門家から思いもかけぬ指摘を受けた。「日本人の欧州認識は、ロンドン経由で英語化された情報に基づいていますね。フィナンシャル・タイムズだけで欧州を判断していたら間違えますよ」と言うのである。ロンドン経由の情報だけでも適切に入手するのは大変な努力を要するのだが、そう言われればもっともである。

逆をイメージすれば分かりやすい。もし、欧米の人に面談し、「われわれはアジアでは香港に情報拠点を置いているので日本のこともよく分かりますよ」と言われたならば、当惑するであろう。生の情報に深く触れることは決して容易ではないのである。

日本人の世界認識は、静かに観察すれば、極端に「アメリカ」というフィルターを通じて世界を見ていることに気付かざるを得ない。戦後半世紀以上もの特殊な依存関係のなかで、アジアのことも、中東もヨーロッパも、無意識のうちにアメリカの価値観を通じて観察しているのである。一つに事象を多角的に検討する志向を身につけないと、われわれの時代認識は薄っぺらな固定観念に陥る。

日本の産業界の時代認識にとって、総合商社の存在価値は何かを自問すれば、多様で重層的な情報回路を有していることであろう。産業界のアンテナとしてその役割期待に着実にこたえる体制を充実させていきたいと思う。