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レポート

北朝鮮 核実験の構図
—今こそ世界に向け非核のメッセージと新しい核非拡散体制のビジョンを発信せよ—

渡部恒雄 経済・産業分析室 主任研究員
2006年10月 共同通信配信記事

北朝鮮の核実験は、東アジアの安全保障への重大な挑戦であるとともに、これまでかろうじて命脈を保ってきた核不拡散体制に最後通牒を突き付けている。世界は、北朝鮮だけでなく、イランの核開発と両にらみで対処しなくてはならない状況になった。

米国戦略の失敗はまたも明らかだ。ブッシュ大統領はイラク・イラン・北朝鮮を、大量破壊兵器保持をもくろむ「悪の枢軸」と呼び、イラクを攻撃した。しかし、イラクに十四万の米軍兵力がくぎ付けになることで、むしろ軍事オプションを狭め、イランと北朝鮮の核開発への抑止力を失った。

北朝鮮に対しては、ブッシュ政権は、クリントン政権の行った「枠組み合意」を批判する政治的な立場から、硬直的な態度で二国間対話を封印。イランに対しても、最近やっと柔軟姿勢を見せてきたが、状況は一緒だった。ブッシュ政権内の現実派が妥協点を探ろうと試みても、チェイニー副大統領を中心とする強硬派が邪魔をしてきたのだ。 深刻なのは、核兵器の拡散がもたらす世界の悲劇を予感し、それを理由にイラク戦争をしておきながら、ブッシュ政権は新しい不拡散体制を構築できず、むしろ状況を悪化させたことだ。おそらく、ブッシュ政権の強硬派は、イラク戦争での圧倒的な勝利をイランや北朝鮮に見せつけ、不拡散体制を再構築するという大ばくちを打ったのだろう。米国はばくちに敗れた。

ワシントンの専門家の間では、かなり早い段階でブッシュ政権の犯した戦略的間違いと、現在の悪夢のシナリオは共有されていた。シンクタンク研究者はブッシュ政権に再三警告を送っていたし、2004年の大統領選挙では、心ある専門家が何人も政権を離脱して、民主党のケリー陣営にはせ参じた。ある元政府高官は「われわれは二人の金正日と対峙している。北朝鮮の一人と米国の一人だ」と語っていたほどだ。

日本は憲法九条の理念と非核国家の外交的優位性を再確認し、発信するときだ。九条の理念は、二度と戦争を起こさないために最大限の努力をし、利己的な行動により国際環境を悪化させないということに尽きる。当面の最優先目標は北朝鮮の核の外部への移転を防ぐことだ。北朝鮮からの船舶を強制的に検査する「臨検」が憲法解釈上できないという事態は、すぐに解消すべきだ。北朝鮮の核が他国やテロリストに渡ることこそ、戦争に直結するより大きな危険だからだ。

同時に憲法九条の理念に照らし合わせ、誤解による地域の不安定化を招かないためにも、日本が核開発に踏み切る意思がないことを世界に向かって発信するときだ。北朝鮮・イランの理屈はある意味で明快だ。インド・パキスタン・イスラエルが核開発を成功させたのに非難されずに、なぜわれわれがとがめられなければならないのか…。そこで、日本は非核国家として外交的優位を示せるのだ。

現在の問題解決の糸口は、北朝鮮では中国、イランではロシアが握っている。今こそ、新しい核拡散体制へのビジョンとロードマップを米ロ中が共有するときであり、彼らを動かすための日本の外交資源を再検討してみるべきだろう。