レポート
多国間の拘束力確認は成果 —次の課題は対中改善—
渡部恒雄 経済・産業分析室 主任研究員
2006年7月17日 共同通信配信記事
今回の国連安保理の北朝鮮非難決議にいたる日本外交の過程には、二つの相反する評価がある。
第一は、日本の強硬姿勢を評価する声だ。日本が強い立場を貫かなければ、中国・ロシア両国が当初望んでいた拘束力のほとんどない議長声明で終わっていたかもしれない。第二は、米国が中ロとの妥協に動いたことで、日本がはしごを外された、あるいは米国・中ロの合意の「だし」に使われたという見方だ。
唯一の軍事超大国米国がイラクで力をそがれている状況下では、上記の単純化された二分法で今回の結果を評価するべきではない。日本の報道では対北朝鮮決議ばかりが報道されているので、誤解されがちだが、現在の国連安保理あるいは主要国(G8)首脳会議での最優先課題は、イランの核開発問題である。
しかもこの問題と絡んで、イスラエルとレバノンの武装組織ヒズボラおよびパレスチナの武装組織ハマスとの間での戦闘が激化し、あわや第五次中東戦争前夜という緊迫した国際情勢下である。中東戦争は一段の原油価格上昇と、世界でのテロ激化を招き、現在の世界同時好況ともいうべき状況に冷や水を浴びせかける。これは、経済発展による国力充実が至上命令の中ロ両国にも、米欧諸国と日本にも、最も避けるべきシナリオだ。
このような状況下で、国連安保理が対北朝鮮決議で割れてしまうのは、好ましいことではない。日本の中には中国に拒否権を行使させて、中国の無責任さを印象付けてもいいという考え方もあったようだが、それは日本に災いが降りかかってくるもろ刃の剣だったのだ。
さらに、日本の読み間違えが致命的となるのは、日本が安全保障を最終的に依存している米国の立場に関してだ。米国は、国内に大きな支持勢力があるイスラエルというアキレス腱(けん)を抱えている。しかもイラク問題と対テロ戦争の遂行という難題を抱えて、解決の鍵を握る中ロ両国と決定的に対決するという選択肢はまったくない。
同時に、他国の事情ばかりを考えていれば、北朝鮮ミサイルの直接的脅威にさらされている日本の立場は、国際社会でないがしろにされてしまう。
今回の決議の内容で重要なことは、大量破壊兵器だけではなく、その運搬手段、つまり弾道ミサイルの開発と技術拡散が、国際平和への脅威であることを国際的に確認したことだ。これまで国際法的には、ミサイル開発と実験をとがめる法的手段は日朝平壌宣言のような二国間合意以外にはほとんどなかった。今回、国連決議という多国間で正統性の強い拘束力が示されたことは重要だ。それは、北朝鮮のミサイル売却の対象国として懸念されるシリアやイランが、中東での火種となっている以上、国際社会にとっても重要な話であった。
だが間違っても、今回の日本の外交で、単純な強硬策が功を奏したと考えてはいけない。同盟国米国の動きも、必ずしも、日本の意思に沿うものではないという厳しい環境を考えれば、日本の外交の次の一手は、今回の北朝鮮の行動で最も傷ついている中国との関係改善だ。すでに中国は日本との関係改善に微妙なシグナルを発している。かつてない世界の危機の前に、日米中の利害は大枠では一致しているはずである。

