レポート
米政策の失敗を露呈 —日本、外交の知恵絞る時—
渡部恒雄 経済・産業分析室 主任研究員
2006年7月6日 共同通信配信記事
北朝鮮の日本海への七発のミサイル連射は、小泉純一郎首相の「日米関係がうまくいけばアジアともうまくいく」という言葉に代表される奇妙な思考停止への大きな挑戦だ。ミサイル連射は、北朝鮮に近い立場をとる中国・韓国・ロシアにも大きな不快感を与えた。
だが、国連による北朝鮮への経済制裁を彼らは望まない。日本政府が起草した北朝鮮制裁決議案に、国連安保理の拒否権を持つ中国とロシアは否定的な立場をとっている。中韓ロともに北朝鮮と国境を接し、経済制裁による内部崩壊による難民などの直接被害を受ける立場にあり、米国と距離をおく独自の外交・安保政策もあるからだ。
例えば、中国が米国の嫌う中南米の反米諸国と資源協力を進めていても、米国としては北朝鮮への圧力と六者協議を維持するために、中国と全面対立はできない。ロシアともイランをめぐり似たような状況にある。深刻なことは、米国は内戦状態のイラクに現在十三万を超える軍隊を駐留させ、北朝鮮相手に軍事オプションを取れるような状況にないという事実だ。
イラク開戦から一年ぐらい経たワシントンで目撃したある情景を思い出す。イラク情勢の困難が明白になったその時期、クリントン政権の元高官が親しい日本の政治家に「米国が最初相手にすべきはイラクではなく北朝鮮だったのに、このようなことになって遺憾だ」と謝ったのだ。ここに、現在のブッシュ政権の失敗の本質がある。
ブッシュ政権の対北朝鮮政策は、二国間の対話を拒否し、六カ国協議の場での対話を重視するものであった。しかし軍事的なムチを使う意思が欠如し、かつ「北」の求めるアメを与える交渉の場がないまま、結果的に北朝鮮の瀬戸際政策とミサイルと核の開発継続を許容してきた。
米民主党の現実派はいら立ちを隠さない。クリントン政権のペリー元国防長官らは、六月二十二日付ワシントン・ポスト紙で「北朝鮮がミサイル発射準備を継続するようなら、米国はテポドンミサイルと発射台を攻撃する意図を明らかにすべき」と提言した。間違えてはいけないのは、彼らは保守のタカ派ではないことだ。米国が現在の悪意ある北朝鮮無視政策を変えない限り、究極的には北朝鮮が米国に到達する核ミサイルを保持し、米国への大いなる脅威になるという、ブッシュ政権への警告なのだ。
今回、日本は米国の政策に何を望むのかを整理しなくてはいけない重要な局面に立たされている。ブッシュ政権は、日本の国民感情を知って拉致被害者への同情と理解を示した。また日米のミサイル防衛システムの共同開発と配備も進めてきている。しかしその政策は、ミサイル発射も、核開発も全く止められないものであることが明らかになった。
日本にとって、米国との同盟関係の維持が北朝鮮に対する最後の切り札であることは変わらない。しかし中東を優先し、北朝鮮の増長を許してきたブッシュ政権の政策が、本当に日本の利益に合致するのか。米国が北朝鮮との二国間対話を拒否し続ける真意は何なのか。中韓ロに対して米国の圧力が効かない現在、日本が彼らに働きかける外交武器は何なのか。日本人自身が知恵を絞る時だ。

