レポート
2006年の世界政治・経済
国際情報部
2005年12月27日掲載
III. 各地域政治・経済の現状と課題
9.中東
一部民主化進展も懸念は依然残る
王政や事実上の独裁という体制が支配的な中東では、2005年には米国による民主化路線に対応する意味もあり、湾岸の盟主サウジアラビアの初の地方選や地域大国エジプト大統領選における対立候補の参戦に見られるように、民主的な制度改革が一部で実施された。ただしそれは本格的な動きとまでは言えず、域内への民主化の浸透には、引き続き時間を要するものと考えられる。
例えば、11月のエジプト議会選挙は、民主的な選挙の実施により、非合法であった反体制的なイスラム原理主義政党が躍進した。ムバラク政権にとっては予想外の結果であり、弾圧も辞さない姿勢を取らざるを得ず、かえって政治的なリスクを抱える事態を招いた。これと同様に、中東各国で民主的な選挙が本格的に実施されるようになると、中東全体でイスラム原理主義勢力が伸張する可能性が高い。
また、米軍を中核とする多国籍軍が駐留するイラクでは、暫定政権の成立や憲法草案をめぐる国民投票実施など民主化プロセスが前進したが、依然としてテロ事件が頻発し、イラクは「内戦状態」にあるとの見方もある。11月末時点で米軍の死者数はイラク戦争開始後から2,000人を超え、ブッシュ大統領の支持率低下にまで発展、米国の内政問題ともなっている。さらに、イラクの勢力の影響と目されるテロ事件が隣接国ヨルダンでも発生した(下図)。域内の治安維持に関する懸念は依然として大きい。

反米的な動きを続けるイランでは、核開発疑惑で国際社会から圧力を受けたことも一因となり、保守の中でも強硬派が新大統領に就任。05年前半からウラン濃縮関連活動の再開を表明。欧州の融和努力は暗礁に乗り上げた。9月の国際原子力機関では欧州の提出による、初の安保理付託を含む対イラン決議が採択された。この採択にはロシアと中国が棄権し、付託は先送りされたが、ロシアが賛成にまわるような動きを見せ、核開発疑惑は解消の目途がつかない。
パレスチナでは、9月にイスラエルがガザから一方的に撤退したが、より大きな入植地が存在し、分離フェンスでパレスチナ居住地の囲い込みが進む西岸からの撤退には手が付いていない。そうしたなかイスラエルでは、11月にシャロン首相が与党リクードから離党し新党を設立、与党連合は分裂した。少数政党が乱立するなかでの総選挙が06年3月に予定されているが、新政権の発足は4、5月になるとみられ、中東和平は事実上一時停止の状態となっている。
域内経済の活況とオイルマネーの先進国への還流
中東は原油高で潤っている。GCC諸国(湾岸協力会議:サウジ、UAE、クウェート、カタール、オマーン、バーレーンの6カ国の地域協力機構)は、原油高の恩恵を受け、石油収入が増大、経常収支の黒字急増や財政の好転がみられる。GCC全体の05年の石油収入は前年比約5割増の約3,000億ドルと推計されている(下図)。サウジでは、経常収支の黒字幅は05年に約700億ドルと03年の200億ドルから3倍以上の急拡大を見込んでいる。こうした収入増を反映して、同国の1人当たりGDPは04年には1万ドル台を超えた(下表)。住宅、ホテル、商業施設の不動産投資も活況を呈している。


大型プロジェクトも目白押しである。04年のGCCにおける大型プロジェクト案件の総額は約160億ドルと前年に比べ倍増したが、05年以降実行予定の案件も、総額648億ドルに達している(下表)。株価も急騰しており、05年年初来10月末までの株価指数の上昇率は、サウジ、UAEで各々約200%、ドバイで300%超となっている(下図)。


また、一旦中東諸国に流入したオイルマネーが、世界的な資金フローに変化を与えている可能性がある。オイルマネーは米・欧・日の株式・債券・商品市場に還流し、世界の金融市場全体を動かす重要なファクターとなっている。サウジの外国証券投資残高は、04年末の526億ドルから、05年10月末には809億ドルにまで拡大している。増加分の大半は、英系銀行や中南米のタックスヘイブンを通じ、米国国債購入へ向かったものとみられている。実態は明らかにされていないが、米国国債の購入元としては、英国経由の資金が増加しており、オイルマネーの還流の可能性を示唆している。膨張を続ける米国の経常収支の赤字の一部を、オイルマネーがファイナンスする構図である。
こうしたオイルマネーの相当部分が英国経由で世界に還流しているのに加え、前述の大型プロジェクトの多くで、英HSBCや仏BNP Paribasといった欧州系金融機関が主幹事を務めており、「中東の金庫番」を任じる欧州系金融機関の存在感が際立ってきている。

