情報発信

HOME > 情報発信 > レポート > 2006年の世界政治・経済

レポート

2006年の世界政治・経済

国際情報部
2005年12月27日掲載

III. 各地域政治・経済の現状と課題
3.欧州
年央から回復基調に転じた2005年の欧州経済

欧州経済は2005年前半、低成長が続き、特にユーロ圏では個人消費の不振や外需の悪化が成長を抑制した。また、相対的に高成長を享受していた英景気は個人消費の伸びが住宅価格の下落に伴い鈍化したことから減速し、英中銀は7月のロンドン同時多発テロによる景気下振れリスクも考慮に入れ、8月4日に0.25%の予防的利下げを実施した(政策金利4%)。

しかし、年央以降、欧州景気はユーロ圏の復調、英景気減速の一服により回復軌道にある。ユーロ圏の企業景況感は、堅調な海外受注やユーロ安を受けた輸出の持ち直しを背景に着実な回復基調にあり、7–9月期のユーロ圏実質GDP成長率も前期比0.6%と4–6月期の同0.4%から加速した(下図)。欧州委員会によれば、05年通年の成長率は、EU25カ国が前年比1.5%、ユーロ圏が同1.3%となる見込みである(下表)。

ユーロ圏実質GDP成長推移
主要国GDP成長率

なお、景気が緩やかながらも回復軌道に乗ったことを受け、欧州中央銀行(ECB)は、消費者物価が原油高の影響からECB参照値の前年比2%を上回ったまま高止まっていることやマネーサプライの伸びも高率であることから、2年5カ月間据え置いていた政策金利を12月1日に0.25%引き上げ2.25%とした(下図)。ECBが警戒するコアインフレ率の上昇や賃金上昇といった原油高の二次的影響はまだ表れていないものの、中長期的な物価安定を至上命題とするECBは予防的な利上げに踏み切ったものとみられる。

景気・物価動向と政策金利推移
欧州景気の回復は緩やかなペースにとどまる公算

ユーロ圏の輸出好調は、(1)時間差を伴ったユーロ安効果、(2)海外景気の底堅さといった外的要因に加え、ドイツで顕著な企業のリストラ努力による競争力向上を背景に持続する公算である。また、企業収益の増加、企業景況感の回復、設備稼働率の上昇を背景に設備投資が拡大し内需も上向く見込みであることから、足元のユーロ圏景気の回復基調は今後も持続しよう。

ただし、企業の労働コスト抑制姿勢の堅持や原油高による物価上昇から、ユーロ圏の家計部門の回復は遅れる公算である。また、ユーロ圏の財政規律である安定成長協定は財政赤字を対GDP3%に収めることを定めているが、中核国のドイツ、イタリア、フランスの赤字は上限を上回る水準が続いている(下図)。05年3月に安定成長協定は運用が柔軟化され、若干の時間的猶予ができたものの、3国の政府は赤字削減のために06年も緊縮財政策を採用する見込みである。こうしたことから、景気回復ペースは緩やかなものにとどまる公算で、06年のユーロ圏成長率は潜在成長率とされる2.0%をやや下回る程度となろう。また、06年のEU25カ国の成長率は、新規EU加盟国の高成長持続や早期予防的利下げの奏功による英国景気の持ち直しからユーロ圏を若干上回る成長率が見込まれる。

ユーロ圏財政赤字推移

なお、物価は当面、高止まり推移が続こうが、景気回復ペースが緩慢なことや原油高の物価への悪影響が剥落することから06年中にはECB上限近辺に収まる見込みである。ECBの利上げは緩やかなペースで実施され、06年の利上げ幅は小幅なものとなろう。

低成長脱却のカギとなる構造改革の進展

EU拡大に伴う競争激化から、ドイツ企業を中心としたユーロ圏企業はリストラ推進や労使合意による高賃金構造の変革などを実行し、顕著な競争力向上、企業収益増、輸出増を実現しており、民間部門による構造改革は進展していると言える。一方、労働市場改革、税制改革、社会保障制度改革といった制度面での構造改革のスピードは引き続き緩慢である。ドイツでは9月18日の総選挙後、2カ月近くの連立協議を経た上で、ようやく11月22日にCDU/CSUとSPDによる大連立政権が誕生した。合意された政策協定には、両党公約の折衷案の形とはいえ財政赤字削減、労働市場改革、失業保険改革を進める内容が盛り込まれており、一定の評価を受けている。しかし、法人税減税が08年に先送りされた点や、健康保険改革など合意されていない政策についての両党の意見調整が難航する可能性も指摘されており、今後も、政府による改革進展スピードの加速はあまり期待できない。ドイツを中心とした欧州の低成長脱却、持続的成長維持のカギとなる官民双方による構造改革の進展には、まだ時間を要するものとみられる。