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レポート

2006年の世界政治・経済

国際情報部
2005年12月27日掲載

II.2006年の注目点
2.世界経済に影を落とす米国の住宅価格
高騰の波紋と高まる不安

米国の住宅価格が高騰している。全米平均の上昇率は、2005年7–9月期までの1年間で12.0%、2年間の累計では26.8%に達している。この動きが、06年の米国経済にとって、ひいては世界経済全体にとっての、大きな懸念材料となっている。それは、住宅価格高騰が個人消費を押し上げている可能性があり、その要因が剥落、さらには逆転するようなことになると、米国の景気は大きく落ち込む可能性が高いためだ。

住宅価格の上昇は、住宅担保ローンの利用限度の拡大を通じて、それを保有する家計の購買力を押し上げ、実際に個人消費の拡大につながっている可能性が高い。グリーンスパンFRB議長は、9月の講演において、“Home Equity Extraction”(住宅の新規取得を目的としない住宅担保ローン)によって家計が調達した金額は、04年には前年より1,600億ドル増加して6,000億ドルに達し、そのかなりの部分が個人消費の拡大にまわったとの認識を示した。それは裏返せば、住宅価格の上昇ペースが名目成長率並みに減速すると、急騰を反映して伸びた部分が剥落し、経済成長率を1%程度押し下げる可能性があることを意味している。急騰から反落に転じるようなことになると、マイナスのインパクトはさらに大きなものともなりかねない。

住宅価格高騰の背景

住宅価格の今後の動きを考えるには、ここまでの高騰の背景を整理しておく必要がある。近年の住宅価格高騰の要因としては、第一に、好調な経済環境や人口増加といった基礎的な条件の変化が挙げられる。04年後半以降の時期に限ると、その間の住宅価格の上昇ペースは異常に見えるが、それまでの時期には、住宅価格の上昇ペースは、名目GDPの成長ペースを下回っていた(下図)。それを考えると、近年の高騰は、それまでの出遅れ分を取り戻す動きと見ることもできる。

住宅価格指数の推移

第二には、金利が低水準で推移してきたことが挙げられる。財政収支と経常収支の、いわゆる双子の赤字は依然として大きいが、国外からの資金流入が順調なため、03年後半以降、長期金利が名目成長率を大幅に下回る状況が続いている(下図)。さらに、金融機関が、当初の返済額を抑えた新しいタイプのローンを投入するなど、住宅ローンの市場開拓を活発化させたこともあって、住宅取得者にとって有利な金融環境となったことで、住宅の新規需要が急速に顕在化した。

長期金利の推移

そして第三に、値上がり期待に基づく投機的な需要の拡大、いわゆる「バブル」が生じている可能性も指摘されている。上昇分のうち、前述の基礎的な条件と金融環境の変化で説明できない部分は、全体としては大きくはないと考えられる。ただ、都市ごとに見ると、カリフォルニアやネバダ、フロリダの各州を中心に、1年で3割以上の上昇を記録している都市もあることから、一部の地域では、値上がり期待に基づくバブル的な価格形成が行われている可能性も無視できない。

カギとなる長期金利の動向

ここで挙げた3つの要因のうち、1990年代以来の人口増加や雇用環境、所得環境の改善については、大きく悪化に向かう可能性は低い。住宅価格をさらに押し上げる要因にはならないまでも、下落のきっかけになることは考えにくい。また、バブルによる上昇分が、自律的に剥落することは考えられるが、それだけであれば、影響は局所的、限定的なものにとどまるだろう。

それに対して、06年に変化が生じる可能性が高いのが、金融環境である。05年までは、経常赤字の累増にもかかわらず、相対的に景気が好調であった米国市場に順調に資金が流入してきたため、長期金利は低位で安定していた。しかし、06年には日本に続いて欧州の景気回復も予想される。それに伴って、日・欧の金融市場や株式市場への資金の流れが拡大すれば、長期金利が上昇に転じ、その結果、住宅価格の上昇には歯止めがかかる可能性が高い。その際、金利上昇のペースが極端に早くなれば、バブルの崩壊を促すとともに、住宅価格の停滞自体が景気の悪化要因となり、住宅価格と景気とがスパイラル的に落ち込んでいく可能性もゼロではない。

しかし、日・欧が回復してきたといっても、米国経済の失速に耐えられるほどの持続力があるとは考えにくく、そうした事態につながるほどに急速な金利上昇が進む可能性は低いものと考えられる。したがって、米国の長期金利は、日・欧の景気回復に合わせて緩やかに上昇に転じ、それに伴って住宅価格の上昇も徐々に減速していく展開が、最も有力なシナリオと言えるだろう。