レポート
2006年の世界政治・経済
国際情報部
2005年12月27日掲載
I.世界政治・経済展望
2.国際情勢—ブッシュ政権の弱体化とユーラシア・ダイナミズム—
米国中心の9.11体制が変化した2005年
2004年12月の大統領選挙で念願の再選を果たしたブッシュ政権だが、05年は政権発足以来、最悪の一年となった。イラク状況の停滞、ハリケーン被災者への不十分な対応、原油高、身内重視人事の弊害、さらに政権中枢の機密漏洩スキャンダルと問題が続発するブッシュ政権の不人気は、10月、11月には30%台という最悪の支持率を記録した。
一方、ヨーロッパにおいても、05年は英仏独といった主要国のリーダーシップが弱体化した年だった。英国は7月のロンドンの同時テロで56人の犠牲者を出し、ドイツは9月の総選挙でどの政党も過半数を獲得できず、11月の大連立政権成立まで、生みの苦しみを味わい、フランスは11月に各地で暴動が発生した。このように、英仏独ともに国内政治も安定せず、域内に強いリーダーシップを生み出すような状況にはなかった。また、5月にはフランスで、6月にはオランダで、欧州憲法批准の国民投票が否決され、EU統合への求心力にも陰りが見えた。
そもそも2005年というのは、01年の9.11テロ発生以降、米国中心に回ってきた国際情勢に代わって、多極化の流れが顕在化してきた年と言えよう。ブッシュ政権は対テロ戦争とイラク戦争の継続のために、ロシア、中国、インドなどの地域の大国との連携を優先させ、フリーハンドを認めてきた。そこにきて、米国がイラクの泥沼に足を取られて、強い指導力を発揮できず、また世界的に好調な経済状況もあって、地域大国の力は相対的に浮上してきている。

ユーラシア・ダイナミズムの展開
そのような新パラダイムが顕著に表れた例がユーラシア・ダイナミズムである。05年のロシアは、エネルギー価格の上昇による収入増を背景に、積極的なユーラシア外交を展開した。バレンツ海の領海線確定で対立してきたノルウェーと資源開発で合意し、9月には、ガスプロムとノルウェーなどの企業との共同開発事業を発表した。同時期に、プーチン大統領はドイツを訪れ、ウクライナ、ポーランド、バルト諸国をバイパスし、バルト海経由でロシアとドイツを直接つなぐ天然ガスパイプラインの建設契約に正式調印している。また、ロシアは長年にわたり紛争の原因となっていた中国との領土問題を解決し、8月には初の大規模合同軍事演習を行うなど、中国との関係改善も進めている。
ユーラシアのダイナミズムで見過ごせないのが、中国、ロシアと中央アジア諸国とで作る上海協力機構だ。中国とロシアは、上海協力機構を通じて、ウズベキスタンに駐留する米軍基地の継続使用を断念させるなどの活発な動きを繰り広げている。また資源獲得に奔走する中国は、スーダン、ブラジル、ベネズエラなどの米国と距離を置く資源産出国と関係を深めている。インドも、長年のカシミール紛争を抱えるパキスタンとの関係を改善し、イラン–パキスタン–インドの天然ガスパイプラインの建設を進めている。EU内でも、一時は米国との関係を深めていたスペインが政権交代後、イラクから撤退し、反米のベネズエラと兵器売却契約を結び米国を苦しめている。
これらの動きは、各国が「反米同盟」を形成するというよりは、それぞれに米国とは一定の良好な関係を保ちつつ、同時に多少の摩擦を覚悟しながらも自国の経済利益を追求する構図である。米国やEUのリーダー国は、このような動きを懸念しつつも、現実的利害から各国にある程度の支持を与えざるを得ない状況にある。例えば、イランと北朝鮮の核開発問題も、この構図で見ていくと、ロシアや中国などによる一定のコントロールによる安定という正の面と、核開発断念圧力の低下という負の面が考えられる。
2006年も多極化が進行
06年に中間選挙を控えるブッシュ政権は、イラクからの大規模な米軍削減を真剣に検討しており、現在の約16万の兵力を06年中に10万にまで削減する計画がメディアで取りざたされている。政治的な思惑を考えると、少なくとも、選挙前までに目に見える軍の削減を発表する可能性は高い。米国以外では最大の8,500人を駐留させている英国や第二位の韓国、そしてオーストラリアも06年の撤退を模索している。さらに大規模な米軍の削減により、イラクの治安維持機能が失われ、イラクが内戦状態に突入することが、国際情勢で最悪のシナリオとなる。
内戦という最悪の状況は避けられたとしても、依然としてイラク情勢と国内の支持率低下に足を取られて身動きができない米国の苦しい状況は、政治、軍事、経済に優位性を持つとはいえ、06年の国際情勢を流動化させる要因となろう。
06年は、世界的な同時経済成長拡大と原油や天然ガスの高価格の継続が予想される。したがって、05年の世界で多様な展開が見られたエネルギー協力などの経済アジェンダを軸に、地域大国同士の活発な経済外交が予想される。
一方、05年12月に初の東アジアサミットを開催した東アジア地域であるが、米国の地盤沈下に加えて、サミット前の日中韓首脳会談が開催されないという事態となり、政治的なリーダーシップが不透明な状況にある。これは域内の経済ダイナミズムへのリスク要素として、ASEAN諸国からも懸念されている。例えば、鳥インフルエンザの感染なども、国家間の情報の開示と共有を基にした地域協力が死活的に重要だが、日中間の緊密な対話の欠如はこの部分でも大きな懸念材料となろう。

