レポート
岐路に立つ米国–第二期ブッシュ政権の特徴と課題–
渡部恒雄/小村智宏 経済・産業分析室 主任研究員
2005年10月5日掲載
はじめに
1.ブッシュ政権をとりまく政治状況と政権の特徴
- (1) 第二期ブッシュ政権の特徴
- (2) 支持率の低迷・イラク、石油高騰、ハリケーン
- (3) レイムダック化との闘い
2.第二期ブッシュ政権の今後の課題
- (1) ベビーブーマー世代退職の社会保障への大きな影響
- (2) 米軍再編と日米関係の影響
- (3) 中国の戦略と米国の対応
- (4) 最後は外交政策でのレガシー作り
3.第二期ブッシュ政権下の米国経済
- (1) 景気は巡航速度へソフトランディング中
- (2) 懸念材料としての長期金利と住宅価格
- (3) 米国の不均衡と世界の平衡
はじめに
米国経済は底固く成長し、短期的には深刻な問題は比較的少ない。しかし、長期的に経済、財政を考えると、5年後に始まるベビーブーマー世代の退職とともに増大する社会保障費と累積する財政赤字という難題が存在し、現時点で対応しなければ将来に大きな問題を引き起こす状況だ。例えば、ブッシュ政権が強力に推し進めている軍の再編も、短期的にはともかく、究極的には将来の軍事予算の圧縮を狙うものでもある。このように米国の将来に重要な課題を抱えるブッシュ政権であるが、その保守的な支持基盤と政策運営理念、特に減税先行の財政・経済政策の足かせもあり、その対応は鈍い。概して世論も長期的課題への関心は低く、野党民主党も低所得層への福祉切捨てにつながることを恐れて問題提起が弱く、米国の将来への対応は不十分だ。
本来であれば、長期的な財政見通しの悪さは、長期金利の上昇等を招き、現在の経済にも影響を与えるものだが、現在の米国では、基軸通貨国としての安定性や圧倒的な政治・軍事力優位などの要素により、海外から大量の資金が流入して長期金利の上昇圧力を相殺しており、直接的な悪影響を受けていない。このような事態は米国の強みである半面、将来に大きな禍根を残すかもしれない。
現在の国際環境における米国の軍事力の優位性は圧倒的で、米国に挑戦するような覇権国は当面現れそうにない。しかし、同時に13万8,500の米軍を派遣しているイラクの状況は、ベトナム戦争のように泥沼化しつつある。そして、そもそもの目的である国際テロとの戦いは、アフガニスタンでの戦闘も含め、勝利からは程遠く、長期的な継続が求められる。これらの要素は、財政的にも、社会的にも、長期的に米国の国力を消耗させていくだろう。
今後の米国の政治および経済を見ていく際には、このような短期的なプラス要因と長期的なマイナス要因の二つに着目し、その交錯点を見極めていくことが重要となろう。
第二期ブッシュ政権の成果と課題
| 《主な成果》 |
|---|
| ・堅調な景気拡大 − 過去1年間で200万人の雇用創出と失業率の低下(5%) |
| ・集団訴訟改革法(2月17日成立) 一定以上の訴訟金額・原告人数の訴訟の管轄を州裁判所でなく連邦裁判所に指定することで、集団訴訟を抑制する |
| ・改訂破産法(4月20日成立) 資産に応じた返済義務を強化することなどで、安易な個人破産を抑制 |
| ・アラスカ原油開発に道を拓く予算決議(4月28日可決) 実質的にアラスカ自然保護区での原油開発を認可 |
| ・DR−CAFTA(ドミニカ共和国‐中米自由貿易協定)(8月2日成立) |
| ・包括エネルギー法(8月8日成立) エネルギー自給の向上を目指す 11年間で145億ドルの税制優遇措置 原子力発電所の損害賠償の条件を緩和 サマータイムの一ヶ月延長 代替エネルギー技術開発への補助 石油備蓄を10億バレルまで拡大、他 |
| ・高速道路建設法(8月10日成立) 今後6年間の高速道路・公共交通機関整備のための2,865億ドルの歳出認可 |
| ・銃訴訟改革法(7月29日、上院可決。夏休み明けの下院可決は確実) 銃の第三者の使用による民事損害賠償を禁止し、銃製造・販売業者への訴訟を制限 |
| 《課題》 |
|---|
| ・イラク憲法成立およびイラク統治の向上と派遣米軍の削減 |
| ・対テロ戦争と国土安全保障政策の継続で、同時テロの再発防止 |
| ・ハリケーン被災地の復興と自然災害への緊急対応体制の立て直し |
| ・引退するオコーナー最高裁判事の後任判事の指名 |
| ・社会保障制度(公的年金)改革法案 − 確定拠出型の新公的年金の創設 |
| ・大型減税の恒久化 |
| ・グリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長の後任へのスムーズな交代 |
| ・6カ国協議による北朝鮮の核開発の阻止 |
| ・貿易摩擦と人民元の為替レートをめぐる対中経済問題の解決 |

