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独仏連携の凋落と英国の台頭〜グローバル化への対応を問われるEU〜

フアマン ミヒャエル 経済・産業分析室研究員
時事通信社『世界週報』2005年9月13日号より転載

フランスの国民投票で欧州連合(EU)憲法批准を否決したことにより、同国の左派支持者は憲法発効を阻止しただけでなく、独仏の密接な関係にも大きな疑問符を突き付けている。仏国民議会が1954年に、欧州軍創設を目指していた欧州防衛共同体の設立を頓挫させて以来の両国共同路線離脱で、欧州統合の軸から一つの車輪が抜けてしまった。従来のどの政権よりも良好な独仏関係を重視してきたシュレーダー独政権にとって、この情勢はドイツの現行対外政策、とりわけ欧州戦略の挫折を意味していると言っても過言ではない。

英国に傾くドイツ外交

ドイツ国内では、独仏関係を独米関係より優先する政策に批判はあるものの、EU憲法成立などの成功例に静められてきた。憲法批准の否決とEU次期予算交渉決裂は独仏両首脳のレームダック化に拍車を掛けており、両国主導のEU統合深化イニシアチブの限界を訴える要因に発達していく可能性は大きい。特に、シラク大統領の任期は2007年までで、政局の基本構図は急には変わらないため、フランス国民の反統合深化感情にも変化は見込めない。今般の動きは独仏連携の終焉をもたらしたとは言えないとしても、これからのドイツ外交政策は英国をはじめ他のEU加盟国との協力に一層注力する見通しである。皮肉なことに、強い反米感情を持つフランス左派は今後のドイツ外交政策を英国と米国に向かせるきっかけを作ってしまったようである。  また、今後のEUの鍵を握るのは、市民レベルのEU将来像に関するコンセンサス形成であり、特にグローバリゼーションへの対応策を大きく左右するであろう。  過去において、EU域内の調整が難航していた時、独仏連携(図表1)が難所を乗り越えるための強い主導権を発揮し、他の加盟国はそれを強制と思わなかった。しかし、この構図は今や大きく揺らいでいる。それは25加盟国まで拡大してきたEUの十分な域内統治能力および有力な対外政策を保証するEU憲法の発効問題や難航している次期予算交渉に直接起因するものではなく、むしろイラク戦争をめぐる姿勢の違いや安定成長協定の順守違反など、ここ2年の間に出始めた不協和音によるものである。従来常に注目され、半ば自動的に機能してきた独仏の主導権に対し、特に新規加盟国が違和感を抑え切れず、EUの「統一」に疑問が噴出している。独仏連携の健全性を強調しているフランスのシラク大統領とドビルパン新首相に対する懐疑が加盟国の間に顕在化してきた今こそ、利害間の調整役を果たし得る新しい立役者の誕生が必要とされている。

また、今後のEUの鍵を握るのは、市民レベルのEU将来像に関するコンセンサス形成であり、特にグローバリゼーションへの対応策を大きく左右するであろう。

過去において、EU域内の調整が難航していた時、独仏連携(図表1)が難所を乗り越えるための強い主導権を発揮し、他の加盟国はそれを強制と思わなかった。しかし、この構図は今や大きく揺らいでいる。それは25加盟国まで拡大してきたEUの十分な域内統治能力および有力な対外政策を保証するEU憲法の発効問題や難航している次期予算交渉に直接起因するものではなく、むしろイラク戦争をめぐる姿勢の違いや安定成長協定の順守違反など、ここ2年の間に出始めた不協和音によるものである。従来常に注目され、半ば自動的に機能してきた独仏の主導権に対し、特に新規加盟国が違和感を抑え切れず、EUの「統一」に疑問が噴出している。独仏連携の健全性を強調しているフランスのシラク大統領とドビルパン新首相に対する懐疑が加盟国の間に顕在化してきた今こそ、利害間の調整役を果たし得る新しい立役者の誕生が必要とされている

図表1 独仏連携の発展に資した主要事項
ドイツのEU対策に2つの選択

ドイツはその両世界大戦における加害者としての歴史の故に、EUでの主導権の座を単独で埋められない。さらに、同国のEU対策には主に以下の2つの選択オプションがあり、どちらを選ぶかは政権の交代いかんによる。まず、独仏連携をこれからも最大限に生かし、欧州でも広がりつつある「アングロサクソン」の経済モデルに対抗するコアグループを結成する道である。このようなグループは社会保障制度の水準を維持することや、ある程度の保護主義、EU拡大の終止、最低限にとどまる経済改革、EU市場のさらなる自由化への反対を貫くだろう。しかし、このような方針の遂行は結果的に現EUの二極化をもたらす上に、シュレーダー政権が目指しているEUの構造改革およびさらなる拡大に反するものとして、同政権を多大なジレンマに陥れるに違いない。

もう一つは、現時点で濃厚と思われる中道右派政権の誕生により、ドイツは英国のブレア政権との協力強化を積極的に図ることに転化するというものである。ただし、ブレア首相がトルコなどのEU加盟に賛成姿勢を示しているのに対して、キリスト教民主同盟のメルケル首相候補は極めて懐疑的であり、新たに誕生する可能性が高い独英連携にも暗雲が漂う兆候がある。

独仏連携に大きなダメージ

フランスの国民投票でのEU憲法批准否決と同時にドイツ議会が憲法批准に賛成したことで、両国の共同歩調の説得力は深刻な打撃を被った。フランスとの密接的な連携の維持は、必然的にドイツのEU政策の信憑性に大きなダメージを来たす。政治的に弱体化したシラク大統領がドイツとの連携存続を、施策の何の変更もなしに追求しようとすれば、ドイツ政府はそれを退けるであろう。むしろ、ジャン・モネが提唱した「欧州連邦」という全欧的な枠組み形成を自らの使命とする独仏連携の新しい形式模索が有効になろう。

そのために、将来のドイツ政権も充実した独仏対話の踏襲に努め続けることは言うまでもない。また、EUの将来が域内統合のさらなる深化を第一前提としていることを常に強調しなくてはならない。基本的には、2003年にドイツ、フランス、ベルギー、ルクセンブルクの4カ国が欧州独自の防衛能力強化のため「欧州安保・防衛同盟」(ESDU)を創設したように、革新的進歩は新しいEU条約締結なしでも可能である。EUにとって独仏連携はあくまでも「付加価値」であることを両国は引続き力説すべきである。

ただし、それと同時に他のEU加盟国との新しい二国間イニシアチブが不可欠である。現在、最も問われているのは、EUの戦略的推進方策およびEU政策の根本的な矛盾―例えば、自由経済に基づく域内市場と共通農業政策(CAP)補助金の並存、あるいは政治的にもグローバルプレーヤーを目指すEUの外交方針と実際の外交政策がEU予算に占める比率が7%にとどまるという背反の解消が急務である。

また、EU内部では欧州の歴史と文化に鑑みた「自然な」域外境界の在り方に関する議論がほとんど欠如していることも痛感されている。特に後者に関し、地政学的なプライオリティが競合しないドイツとフランスの連携は、EUの将来を形成するために有力である。

ただし、域内サービス市場の自由化への反対などのように、フランスが自国の社会モデルに固執し、これをEU全体に植え付けようとする姿勢を見直さない限り、拘束力を有するEU政策の必要性から、ドイツは新たな連携パターンの模索も強いられる。かつての保守党政権の主な政策を踏襲し、福祉国家の改革および雇用創出で功を奏しているブレア首相は、英国がEU議長国を務める今年後半、EUの競争力強化戦略をまず労働市場の柔軟化政策と市場のさらなる自由化に結び付けようとすると見られている。この方針はスウェーデンやデンマークをはじめ、多くの新規加盟国の間でも歓迎されるだろう。9月の独総選挙で、労働市場の改革を第一優先課題としている中道右派が政権を獲得する見込みの中、確実視されるドイツと英国の急接近はどのような形で行われるか大いに注目される。

存在感増すブレア英首相

EUの将来をめぐる議論において、ブレア首相はリスクマーネジャーより改革者としての傾向が強まっている。EUの議長を務める間、同氏が米国型資本主義と福祉重視の欧州型社会モデルを調和する「第三の道」の可能性を説くようになるだろう。

今年5月の英総選挙での辛勝にもかかわらず、現在の国内政治勢力図をみると、ブレア首相には悩み所が特に見当たらない。EU憲法批准を問う国民投票の無期延期によって、不可避と見られた否決の引責で当然視されていたブラウン蔵相への首相職明け渡しを免れ、EU懐疑派の同氏による任期中の舵取り奪回を回避できた。その結果、ブレア首相は今後EUの将来像の具現化に向けて、EUに関する独自の穏健派的な立場で主導権争いに加わり、EUの次期予算交渉決裂時のようにフランスと対立する場面が確実に増えよう。

また、独仏伊首脳と比べて、内政上強力な競争相手がいないことや政治的な難局に直面していないブレア首相が、将来のEUの青写真作成に王手をかけられるもう一つの理由は、英国の健全な経済発展である。これらの切り札を生かし、現在のアングロサクソン型経済・社会モデルの普及により欧州の活性化に努めようとするに違いない同氏の使命感は、特に中欧の新規加盟国に鮮烈に伝わる。例えば独仏での移民流入に対する警戒とは対照的に、昨年のEU拡大以降のポーランド人労働者18万人の受け入れは英国経済の好調を印象付けながら、同国が域内サービス市場の自由化に意欲的であることを十分に示している。

東方へ拡大したEUでも独仏の主導権は揺るがないとする見方が一般的であったが、英国はイラク戦争への参戦問題に続き、再びEUの主導権争いに乗り出している。中期的にみても、英国を牽制してきた独仏でメルケル野党首相候補とサルコジ国務相兼内務・国土開発相がそれぞれ国家首脳の座に就けば、3国の革新的な協力体制が構築される可能性は大きい。現在のEU主導権争いの中で英国は勝ち組みを形成するキープレーヤーに躍り出ている。

欧州の将来を指し示す羅針盤は

欧州の統合過程は、EU憲法が今後実現するかどうかに多大な影響を受けることになった。一方で、グローバル社会における欧州の位置に焦点を当てると、拮抗するアングロサクソン型社会モデルと欧州大陸型社会モデルの間で半ばイデオロギー論的に繰り広げられる論争で今後どちら側が有利となるか、その結果は欧州の将来を指し示す羅針盤として見落としてはならない。

EU創設国の一つであるフランスでのEU憲法反対の底流には、同国の歴代政権が貫いてきた「社会的経済政策」という方針が自由主義に重点を置くEU憲法に侵されるという顕著な危機感がある。ところが、ユーロの導入により格段に深化した欧州統合で、もはや各加盟国独自の経済政策や域外政策等が不可能となってしまった上に、EUの東方への拡大を確実に加速させたグローバリゼーションという世界潮流に対する共通の対応策が必要となった。

今こそEUの発展能力が問われており、グローバリゼーションへの独自の適応が欧州の将来を決める。しかし、グローバリゼーションへのより積極的な参加が欧州の将来形成上の中核課題であるのに、経済や社会のあらゆる面に浸透しつつある自由主義を背景に、EUの今後の具体的な舵取り政策に対する不安がEU市民に広がっている。それを反映して、例えば多くのフランス人にとって自国の従来経済政策方針は「社会的欧州」の構築を追求するビジョンへと膨れ上がり、EU全体での適用を望むようになっている。

EUのガバナンス体制とEU加盟国の国民意思との乖離を意味する「民主主義の赤字」の解消を政党の垣根を越えて実現するためには、欧州市民間の共通アイデンティティーを如何に育てていくかということがとりわけ重大な課題となる。EU主要国連携構築いかんよりも、欧州市民レベルでのEUの将来像に関するコンセンサス形成過程がEUの将来を基礎付ける。EU憲法には既に民主制強化のために初めて導入する「市民の発議権」が盛り込まれており、加盟国政府が「一方的に」進めてきたユーロ導入や東方拡大など、猛スピードで実現された統合欧州は、市民レベルでのEU政策参加の時代に突入する方向に向く。グローバリゼーションへの対応、欧州市民のアイデンティティーの在り方、EUの境界定義などが今後の憲法批准手続きの成り行きを左右する。